「篠田桃紅の墨象」 展 智美術館 |
「Golden Tablets/ 金言」 2011年
新古今和歌集から4首の散らし書き
3首目は、まさに五月雨の歌。
たまほこのみち行人のことづても 絶えてほどふるさみだれの空 藤原定家
(道行く人からの言伝も絶えて久しくなった、五月雨の降る空よ)
虎ノ門の「智美術館」で書家、篠田桃紅の展覧会を観る。
大連生まれの桃紅は今年で満100歳、その記念の個展だ。
前衛書とも呼べるかもしれないけれど、
「墨象」と銘打っているから「墨による抽象画」という概念なのだろう。
文字の抽象化を究極まで推し進めた、桃紅独自の作品世界だ。
ガラスの螺旋階段を下りていくと、秘密めいた地下の展示室、
その立体的な展示空間に、42点の墨象作品が並ぶ。
シンプルで大胆な構成、鋭角的で確信に満ちた力強い線。墨色の香気。
誇り高く、凛と背筋の伸びた作家の姿に、いつも感動する。
以前読んだインタヴューで
「書をしていて得たことは何でしょうか」という質問に
「線を描く力」と桃紅は答えていた。
線を描く力とは、呼吸する力、ひいては生きる力だ。
己の道を切り開き、その道をひたすら生きてきた桃紅。
たおやかで凛とした線が、私の魂にも深く刻まれる。
Vermillion Vigor/ みなぎる朱 2009年